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[1.動揺と驚嘆と]
信じられないことになってしまった。まさか自分の身にこのようなことが起きるとは思っていなかった。
超一流、日本のリーディングカンパニーと呼ばれた自分の会社がまさか、吸収合併されようとは・・・。
雄二は、つい先ほど、発表されたこの状況に、明らかに動揺していた。中学校の頃から、常に優秀で、
一流の私大を卒業し、入社したこの会社。同期の連中の中でもトップで昇進し、順調な会社生活を送っていた
のに・・・。今年で入社8年目。まだ32歳だが、会社の先輩諸氏を堂々と追い抜いて、早々と管理職になり、
幹部候補と言われていた。今では、先輩諸氏を自分の部下として、日々、扱っている立場なのである。
「しかも、合併の相手先があの訳のわからない出来たばかりのIT企業とは・・・。」
雄二がショックを受けたのも無理は無い。如何せん、相手先はこの業界とは縁の無いIT産業の会社だ。
社長がちょっとしたカリスマ的存在で、ITとは名ばかりで企業の買収を主な業種として、急激に伸びている
新興会社。ITバブルに乗っかって、特別な技術も無い中身の薄い会社だ。それに比べて、雄二の会社は、
歴史もあり、産業界の中枢で日本を牽引してきた超一流の会社だ。バブルの崩壊後も、堅実な業績を上げる
いわば業界の盟主的立場である。社長の説明では、「今後は、ITとの強い連携の中で、より一層の安定した
地位を築き、業界トップの売り上げを確保する為。」とのことであるが、どうも納得がいかない。確かに、ITの力
が必要なのであれば、それはそれで業務提携でもすれば良いわけで。しかも、どう見ても、対等な合併では
無く、雄二の会社の方が、吸収された感じだ。従って、大きな組織的な変更もあるようで、今までの順風満帆な
会社生活が維持出来そうに無く、雄二は、自分の今後について不安な気持ちを抱いている状態になっていた。
会社の合併まで、残り3ヶ月になろうとしていた。この時期になると、相手先の情報が色々と入って来る。
どうやら、部によって、まちまちではあるが、相手先のスタンスは、「敵対的な吸収合併ではなく、当然、会社の
良い部分はそれを最大限活用し、合併後も滞りなく、業務を拡張し成長行くことを共同の目的とする。」との
ことらしい。雄二が現在所属している部は、売り上げ・収益ともトップで、いわば、花形の部署だ。しかも、その
中でも、若手のエースと呼ばれている雄二。
「これであれば、合併後も頑張れば、今まで通りでやれそうだな。」
雄二は、自信を持っていた。何しろ、会社の上層部までもが、その優秀さを認めているのだ。これからも、
会社の若手のエースとして活躍出来る。そう、思い、この前まで抱いていた不安も、いつの間にか、消え去り、
「威風堂々と、相手を迎えれば良い。オレは、負けない。」と、考えるようになっていた。
それから暫くは、色々な噂や風評などが雄二の会社内で飛び交い、どの情報が正確なのか、よくわからない
状況になり、中には、将来に不安を感じて、退職するもの出るようになった。ただ、雄二は自分の持つ自信と
プライドにより、何の不安感も抱いていなかった。それは、むしろ、井の中の蛙、自信過剰のようなある種の
勘違いであったのかも知れない。
それから、暫くして、雄二は我が目を疑うことになる。
「新規事業チームへの異動を命じる。」
合併後の新体制の組織発表があったのが、雄二は、部署を変更させられることになったのだ。花形部署で
No1の仕事をして来たのにである。
「なんだ、この人事は・・・。とうてい、理解出来ない!しかも!」
怒りがこみ上げて来た。しかも、組織図をよくよく見ると、そのチームの課長は、女性のようである。雄二の会社
は、昔ながらの年功序列制で、女性の管理職などほとんどいなかった。何度読み直しても、その組織図には、
「課長 高木真理」とある。
雄二は、怒りとともに落胆した。
「百歩譲って、新規事業に従事するのは良いとして、よりによって、女上司とは・・・。」
今までの自信を失うことはなかったものの、男としてのこの会社での、この仕事でのプライドのようなものが
傷付けられたような気がして、不快な気分になった。
「ん?この名前は・・・?」
雄二は、ふと思い起こした。
「課長 高木真理」
この名前、大学時代に付き合っていた5年下の彼女の名前と同じであった。当時、彼女は、まだ高校生で、
バイト先で知り合って、付き合うようになった。雄二が社会人になってから、自然消滅の形で分かれて、
今はどこで何しているかもサッパリ、わからない。音沙汰なしってやつだ。
「まあ、まさかな。同姓同名だからって、アイツのわけがないな。そんな偶然などそうあるものじゃない。」
雄二は、そう思い、そのことはスッカリ忘れていた。そんなことよりも、
「今後、自分はどうなるのか?」
その不安感と自分の持っている自信との交錯の中で、どうにもこうにも押さえられそうに無い不快な感情で
心の中は一杯であった。
そういう思いの中で、迎えた合併初日。朝、起きると何か妙な胸騒ぎがした。幾分、鼓動が早く感じる。
「まあ、初日だから、緊張くらいするよな。まず、最初が肝心。女上司にナメラレないようにしないとな。
まあ、オレがそんなヘマをするわけないか。」
雄二は、少し、緊張しながらも、ある種の見栄のようなもので、心をコントロールして、出社した。
しかし、雄二は夢でも見ているかのような信じ難い光景を目の当たりにすることになる。そう、その女上司とは、
昔、付き合っていた「高木真理」本人であったのである。
続く
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