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★小説F 「コールセンターガール」★

1.楽園

井波盛夫は携帯電話『cu』のコールセンターで勤務している。都心の一等地にそびえ立つ超高層ビルの25階。晴れた空気の澄んだ日には富士山もよく見える、見晴らしのいい職場だ。井波は高校卒業後、ファーストフードの店員として働いていたが、知人に誘われたのがきっかけで、店を辞めて、インターネットオークションで商売を始めた。主に空気洗浄器の販売を手掛けたが、売れたのは花粉症のシーズンだけで、あとはサッパリ売れなかった。おまけに「サービスが悪い!」「対応が悪い!」「セコい!」「商売やる資格なし!」「異常に悪い!」等、ボロクソのコメント付きでオークションの評価欄に「非常に悪い」を立て続けにつけられ落札者たちの信用をなくして失敗。そして、このコールセンターで契約社員として働くようになった。井波は物心ついたときからロングブーツフェチだった。小学校時代の運動会で仮装行列の際、仲のよかった友達の美人ママが当時の人気アニメ・銀河鉄道999のメーテルに扮して全身黒ずくめに黒のロングブーツ姿でグランドを優雅に一周して歩いた姿に魅入られたことがきっかけだった。コールセンターで働くのはほとんどが女性だ。秋・冬になれば彼女たちは当然のようにロングブーツを履いて出勤してきた。  
"ザザァーッ!""ジジィーッ!"
そして、出勤してきた多くの女性たちは一斉にロングブーツを脱ぎ出して仕事用のサンダルやパンプス、ロファーなどに履き替える。帰宅時はその逆に一斉にロングブーツに履き替えていく姿が見られる。ロングブーツフェチの井波にとってその光景はまさに壮観≠セった。井波は毎日ブーツを見ても飽きることはなかった。なぜなら、一期一会≠セからだ。皮の質、キズの有無、汚れ具合等何から何まで同じブーツを見ることは二度とない。毎日見ているようでも今日見るブーツと明日見るブーツは違う。井波は今日も一期一会の美脚ブーツとの出会いを楽しんだ。彼女たちが事務机の下に脱いだブーツをどう置くかにも、それぞれの個性が現れて面白かった。机下の端に立てかける女、PCのサーバーに立てかける女、クズかごに立てかける女、左右の筒口同士をクリップでつまんで直立させる女、折り曲げて置く女、横倒しにして置く女、中にはブーツ置き専用のトレーを用意する女もいた。だが、それよりなによりやはり、井波にとってはロングブーツを履いたまま仕事をする女が一番、魅力的だった。コールセンターのリーダー・吉田芽衣がそうだった。 「○×君!コレ、コピーしてきて!」  
「ハイ!」  
「△□君!この資料、明日までにまとめといて!」  
「ハイ!」 
芽衣がロングブーツを履いて脚を組んだまま男性スタッフに仕事の指示を出す姿にはゾクゾクした。まさに女帝・女王≠フ風格が漂っている。芽衣は常にお高く留まった雰囲気を出しながら仕事をしているが、彼女にはそれが許される美貌と美脚が備わっていた。もう一人は小手川幸恵だ。彼女はクールビューティー≠ニいう言葉がピッタリ当てはまる、スキのないような美貌の持ち主だ。だが、幸恵は芽衣とは違って美人なのにそれを鼻にかけるようなことはなかった。膝丈までのロングブーツを履いても十分似合う容姿の持ち主にもかかわらず、職場に履いてくるブーツは常にミドル丈のものだった。そういう謙虚さが仕事にも、ファッションにも幸恵にはあった。井波は次第に幸恵に惹かれていった。この日も社員食堂でみそ汁のワカメをズルズルすすりながらしっかりと、幸恵の美脚を観賞した。仕事中もブーツ、休憩室でもブーツ、社員食堂でもブーツ・・・・、井波にとってコールセンター勤務はまさに楽園≠セった。

2.写魔  

20時・・・。コールセンターの営業時間終了後、次々とスタッフが帰宅していった。井波は書類整理をしている間に一人ポツンと居残り状態となっていた。
「さぁ、電気消して帰るか・・・。」
ホッと一息ついた時、幸恵の事務机が視界に入った。憧れの存在・小手川幸恵・・・。ユキエちゃん・・・
「ユキエちゃーん!!」
突然、立ち上がった井波は幸恵のイスにしがみついた。
「ユキエちゃーん!好きだよー!ボクの気持ち分かってぇー!誰よりも愛してるよー!ユキエちゃーん!」 
"ブチュッ!ブチュッ!ブチュッ!"  
井波は、抱きついた幸恵のイスにブチュブチュキッスをし始めた。幸恵への 想いは抑えられなかった。思わず、衝動的にやってしまった行為だった。  
"パシャッ! パシャパシャッ!"  
「ハッ!?」  
その時、もう自分以外は誰もいないと思っていたコールセンター内でカメラのフラッシュがたかれた。  
「フッ。フフフッ。フフフフ。ハッハッハッハッハ」  笑い声を出しながら、大型複合機の陰に隠れていたデジカメを持った芽衣が嬉しそうな表情でロングブーツの踵を鳴らしながら井波に歩み寄ってきた。  
「決定的瞬間≠セったわねぇ(笑)」  
「よ、吉田リーダー・・・!?」  
「フフッ。へぇ、幸恵が好きなんだぁ。もちろん、恋愛感情は自由なんだけどさぁ。ちょっと、今の行為は変態っぽかったよねぇ。幸恵が知ったらどう思うかしらねぇ?」  
芽衣が撮った写真にはブチュブチュキッスをする井波の姿がバッチリと捕えられていた。目で見たものはじきに忘れていくが、写真は半永久的に残る。  
「ど、どうか、内緒にしておいてください!お願いします!」  
井波が頭を下げて頼み込んだ。  
「いいわよ。でも・・・、その代わり条件≠ェあるけど・・・」  
「・・・条件?!」  
「フフッ。簡単なことよ(笑)。私のストレス解消係を引き受けるって事。どうかしら・・・?」  
「そ、そんなぁ・・・」  
「あらぁ。ご不満かしらぁ。じゃぁ、バラしちゃおっかなぁ幸恵に。井波君は変態≠セって事・・・。」  
「ウ、ウウッ・・・。分かりました。ひ、引き受けます。」  
「フフフ。そうこなくっちゃぁ。」  
芽衣は左右のロングブーツをクロスさせながら、いいカモ≠ェ見つかったとほくそ笑んだ。井波をゆすって骨の髄までしゃぶるつもりだ。  
「フッ、早速だけど、まずは、私の机の下に入りなよ!」  
「・・・・・」  
井波は、まるで小学生が強い地震が発生した際に隠れるかのように、芽衣の事務机の下でうずくまった。その、井波のうずくまった体に向けてイスに座った芽衣のロングブーツのピンヒールが左右並んで突っ込んできた。  
"ドスッ!""ドスッ!"
「ウウッ・・・」  
「ハッハッハッハ。ウォラァー!! オラァ!オラ!オラァーッ!ハハハッ。仕事中もこうやって出来たら最高なんだけどねぇ(笑)」  
芽衣はまるで車の運転席に座ってペダルを踏むかのように机の下に押し込めた井波をロングブーツで弄んだ。
吉田芽衣、25歳・・・。その美貌と抜群のスタイルの良さで、都内のお嬢様女子短大時代は合コンの女王として君臨。一年生秋の合コンでは、土方大学に通う学生・嶋田裕二に目を付けた。嶋田はボンボン育ちの典型的な社長のドラ息子・バカ息子だった。芽衣は合コン会場で早くもいいカモ≠ェ見つかったとほくそ笑んだ。そして、嶋田にスリ寄って美貌を武器にたぶらかして簡単にゲット≠オた。芽衣にとって、嶋田は太いネギを何本も背負ったおいしいカモだった。欲しい物は次から次へと嶋田のキャッシュカードで買わせたり、車での送迎役をやらせたりしていいように利用した。  季節柄、芽衣は当然のようにロングブーツを履いて短大へ通学した。ロングブーツは自分の美脚をより美しく見せてくれる最高のアイテムだった。ロングブーツを履いた時と履かない時とでは明らかに自分を見る街の男たちの視線が違った。ただ、ロングブーツは脱着が面倒臭いのがネックだった。そこで、芽衣は、嶋田にブーツ脱着の代行業務≠やらせることを思いついた。そして、両親不在の時間帯を見計らって、家の玄関で、呼び寄せた嶋田を跪かせた。  
「ねぇ。ブーツ脱ぐの面倒だから、脱がして!」  
「ハ、ハイ!」  
"ザザザァーーッ!""ササァーーッ!""ジジジィーッ!""スルスルッ!"  
「フッ。フフッ。フッフッフッファッハッハッハ。アーッハッハッハッハ!!」   
自分の両手を一切使わずにロングブーツが左右の美脚から離れていくのを見届けた芽衣は、思わず、玄関の天井を見上げて家中に響き渡るような大声で笑い出した。成人式を迎える前に自分も女王様生活の仲間入り・・・。芽衣にとってはたまらない瞬間だった。笑い出すのも無理もないことだった。  
「オッケー。じゃぁ、今度は履かせて!」  
「ハ、ハイ!」  
脱がせたのつかの間、再び嶋田にロングブーツを履かせた。そして、恩を仇で返すかのように、嶋田の顔にロングブーツの靴底を押し付けて楽しんだ。  
「これから外でどんどんやってもらうからね!しっかり頼むわよ!フッフッフッフ。ハーッハッハッハッハ!」  
再び、芽衣の笑い声が家中に響き渡った。自宅の玄関で予行練習≠済ませた後は、外で、実践≠ノ励んだ。まず、手始めに、カラオケBOXの個室で嶋田を跪かせた。次は、焼肉屋のお座敷席の前で嶋田を跪かせた。こんがり焼けた肉を箸でつまんで口に入れようとしていた、隣のお座敷席にいた客が思わず、口を開けたまま箸を持つ手を止めてしまうほどの光景だった。そして・・・、芽衣が最高の女王様気分を味わった場所は病院だった。家の玄関よりもはるかに広い、土足からスリッパへと履き替える病院の玄関口。その玄関ホールのまん真ん中で嶋田を跪かせた。  
「ハ〜〜イ♪」  
そして、玄関の上がり口に腰掛けた芽衣が、当然のように左右の美脚を包んだロングブーツを跪かせた嶋田の目の前に差し出した。
"ザザザァーーッ!""ササァーーッ!""ジジジィーッ!""スルスルッ!"  
「何もそこまで・・・」
男女を問わず、診察を待つ様々な年代の人々の視線を集める中で、これ見よがしに嶋田にブーツの脱着係をやらせた。ストレスがたまれば嶋田をラブホテルに連れ込んだ。ホテルの一室で、全裸になって心臓をドキドキさせながら自分を見つめている嶋田に対して芽衣は冷たく言い放った。  
「何よ!アタシ合意≠オないからね!フン、襲いかかってきたら強姦罪≠セからね!」  
「ウウッ・・・」  
「フフッ。なんでアタシがニーハイ履いてココに来たのか分からないのかしら?」  
「・・・・・」  
芽衣はベッドをイス代わりにして腰掛けていた。そして、足元は真っ黒なニーハイブーツ姿。しかも、履き口周辺はファーで囲まれ裏地はヒョウ柄という、いかにも獲物を狙うハンターを連想させるようなデザインのニーハイブーツを着用していた。  
「分からないなら教えてやるわよ!オラァ!ハハハハッ!オラァー!オラ!オラァ!」  
"ドスッ!""ドカッ!""ボゴッ!""ボカッ!"  
「ウウウッ・・・ウウウウッ」  
ついに、念願のメイちゃんとホテルでエッチ・・・。ガチガチにテンパってホテルに入館した童貞の嶋田の夢を真っ黒なニーハイブーツが撃ち砕いた。  
「ハハッ。誰がアンタのアソコをしゃぶるかっつーの!アンタがアタシのヒールをしゃぶるんだよ!ホラ!しゃぶりな!」 "ウォボボボボ!" "オゥボボボボ!"  
芽衣のニーハイブーツのピンヒールが嶋田の口にスッポリと入り込んだ。  
「アッハッハッハッハ! 普段、一緒に授業を受けている教室の中で女王様はこのアタシだけ・・・分かったぁ?アーッハッハッハッハ!」  
芽衣は、ホテルの密室で2時間の休憩コース時間いっぱいたっぷり使って全裸の嶋田を料理≠オた。芽衣は、嶋田を奴隷にして楽しむその傍らで合コンには引き続き参加していた。  
「アレッ?!メイちゃん。'ドカ大'の嶋田君と付き合ってるんじゃなかったっけ?」  
「フフッ。あんなヤツ、ただの金ヅルよ!アタシのシナリオ£ハりよ!」  
「シナリオって・・・?」  
「フフッ。まず、最初に金ヅルをゲットしてそれからじっくり本命を探すってことよ。アタシ、結婚するなら公務員とじゃなきゃイヤよ。安定した生活の中で赤ちゃん産みたーい!」  
「・・・ふぅーん。そうなんだぁ・・・」  
合コン会場の洗面台で鏡を見つめて念入りに化粧直しをしながらの短大の友人との会話だった。ボンボンボンクラ学生の嶋田からはいいように金品を巻き上げ、吸い上げていく一方で、合コン会場では狙い撃ちするように、次から次へと公務員の男たちにスリ寄っていった。ズル賢い女・吉田芽衣。  しかし、短大生活はあっという間に終わった。四年制の大学に通う女子大生たちとは違い、短大生は入学の年と、卒業の年しかない。合コンでの公務員ハンティング≠ノ夢中になるあまり、自身の就職活動がおろそかになった。気付いたときにはもう、卒業間際だった。そして、ほとんど「無職よりはマシ」という感覚ですべり込むようにこのコールセンターに就職した。   だが、クレーム対応がメインのコールセンターはストレスの多い職場だった。 3〜4割は一年以内に辞めていく。ストレスで体調を崩すのが主な原因だった。
「料金が高い!」「サービスが悪い!」「修理しても治らない!」「ショップ店員の態度が悪い!」「たらい回しにされた!」・・・。顔の見えない客から様々なクレーム電話が寄せられる。相手はお客様は神様気分≠ナ、次から次へとかけてくる。意地悪な電話や言葉の暴力も受ける。そうかと思えば、ただ、「寂しいから」と若い女性スタッフの声目当てに電話してくるエロオヤジもいる。職場の定着率が悪いため、芽衣がすぐに押し上げられるように若くしてリーダーとなってしまった。リーダーになればより、責任が増す。特に毎月、各家庭に料金明細が配られる15日頃から徐々に問い合わせが増えていく。だいたい、20日前後がストレスのピークだ。コールセンターで働く芽衣にとっては、ストレス解消用の獲物は必需品≠セった。芽衣は井波に目を付けた。こんなストレスにまみれた職場で音を上げずに勤める男は、よほど神経が図太いか、それともM気質≠ゥ、どちらかだろう・・・と。それに、どうも仕事中、井波は女性スタッフの脚、特にブーツばかりにチラチラ視線を向けているようだった。職場で一人きりにすれば何かをやらかすんじゃないかと思い、シャッターチャンスを狙っていた。そしてこちらの狙いどおりにやってくれたのだ。井波の行為は、よだれを垂らして口を開けている獣に自分から歩み寄って行ったようなものだった。  
「フフフ。これから私がメール出したら、職場に残る事!いいわね。」  
芽衣は、勤務時間外でも井波の上司≠ニなった。

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