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★小説H 「ブーツと遊ぶ女」★

1.予備校
満田繁は東京都心にあるM予備校に通う予備校生である。M予備校は大学の医学部・歯学部・薬学部受験を目指す学生たちのための医学系専門予備校だ。医学部に合格するには、学校の勉強だけでは足りない。よほどずば抜けた天才人間でない限り塾・予備校に通う必要がある。満田は都内にある大病院、ミツダ総合病院の大事な継ぎ手なのだ。ミツダ総合病院は金持ちの病人だけを対象にした徹底的な豪華特別濃厚治療サービス方式だ。それが、金の力で寿命を延ばそうとする金持ち病人や老人を集めて、病院は上昇気流に乗りっぱなしである。金があれば優秀な医師やスタッフや最新医療機材を集められ、さらに金持ちの病人を惹きつけるという好循環を生んでいた。しかし、医者になるためには大学の医学部を卒業して、医師免許を取らなければならない。弁護士は法学部を出ていなくてもなれる道があるが、医者はそうはいかない。これが、デキの悪い満田にとっては険しい道のりだった。すでに二浪して今度落ちたら三浪となる。親としてはどんな大学でもいいから引っかかって欲しかった。病院内にいくらでも優秀な医者がいるとはいえ、親バカのご多分にもれず、何とか息子の繁に、後継ぎになってもらいたいと願っていた。
満田は物心ついたときからロングブーツフェチだった。満田は何よりも父親の病院で働く若い看護婦たちのブーツ姿に興奮していた。彼女たちは勤務中、当然のごとく病院の中では、ナースシューズを履いて歩きまわっている。しかし、そのペッタンコ≠フナースシューズを長時間履いて歩く反動なのか、彼女たちは、プライベートではヒールの高い派手なデザインのロングブーツやニーハイブーツを好んで履いて歩く傾向があった。満田は、白衣の天使≠スちが見せる、病院の中と外での足元のギャップの大きさに興奮していた。  
「スッゲーェよ! とても同じ看護婦には見えねぇゼ!」  
物陰に隠れて彼女たちが職員用玄関で、余裕で下駄箱におさまるナースシューズから、とても下駄箱には収まりきらないロングブーツやニーハイブーツに履き替えていく姿を眺めるのが満田の日課≠セった。
「あぁ、上半身は白衣姿のままで、あのヒールの高いロングブーツで踏まれたり蹴られてみたい。普段、人助けをする白衣の天使たちに笑いながら徹底したブーツ責めを受けてみたい・・・」  
そして、彼女たちを眺めてはそんな妄想と股間を同時に膨らませていた。しかし、そんな事を大っぴらに言って、病院の中で変なウワサが立ったら親にも迷惑がかかる。満田の父親はテレビの健康情報番組や健康情報雑誌にもたびたび登場する有名人なのだ。大病院院長御曹司の満田のルックスは決して悪くはない。実際、看護婦の中には、彼にアプローチ≠オてくる者もいたが、妄想を現実にすることは出来なかった。満田は、M予備校の事務員で、受付窓口係の水野貴美枝に好意を持っていた。貴美枝のその、都会的な美貌に流れるような脚腺美、小麦色のロングヘアー・・・。見学でフラっと立ち寄った際、窓口で応対した貴美枝の美貌と笑顔に惹かれて、もっと家から近い予備校もあったが、このM予備校を選んだ。貴美枝は、事務仕事中はカマボコヒール≠フサンダル姿でいるが、通勤では、『銀座ドイアナ』のヒールの高いロングブーツをキレイに履きこなして歩いていた。その姿に満田は病院の看護婦たちに通じるものを感じていた。貴美枝の美脚ブーツ姿を見たいがために彼女の出勤時間に合わせるように予備校に通った。  
「おはようございます。」  
「あっ、おはようございます(笑)。」  
挨拶すれば、必ず美しい笑顔で返してくれる。何とか彼女に好意を持っていることを伝えなければ・・・・・。そう考えていたある日、チャンス≠ェ訪れた。貴美枝のデスクのそばで成績のことで講師と会話する機会ができたからだ。
「満田君!もうひと頑張りしないと、合格は厳しいゾ!」  
「エヘヘ。水野さんに教われば成績もグンと上がると思うんですよね。」  
満田は講師の厳しい叱責に思わず手で頭をかきながら言ってしまった。  貴美枝がこちらに目をやった。反応があったことに気付いた満田はさらに付け加えて言った。  
「水野さんみたいなキレイな人に教わりたいっスよー。」
「ハハハ。水野さんは講師じゃないぞ。確かにキレイだけどね。」  
満田は貴美枝に聞こえるように講師に話した。講師とのやり取りを聞いた貴美枝は指を鼻に当てて照れくさそうにクスッと笑った。何とか好意を持っていることが伝えられたようだ。

2.狡猾事務女  
"カチャッ! カチャカチャカチャッ!"
予備校から帰宅した貴美枝は、風呂上がりの缶ビールを飲みながらパソコンのキーボードを叩いていた。そして、自分で作成したエクセルの画面を眺めた。
『氏名:満田繁。住所:世田谷区成城○−×−△。開業医の息子。私大医学部志望。品川ナンバーの高級車所持。親はテレビの健康情報番組のコメンテーターとしても登場する人気医師・・・・』
「フフッ。満田繁、文句なしのAランク≠セわ(笑)」   
缶ビール片手にエクセル画面を見つめて貴美枝が思わずニヤッと笑った。貴美枝は事務員の立場を利用して予備校に入学してくる学生たちをA・B・Cにランク付け≠オていたのだ。まず、住所はどこか?世田谷・目黒・大田区などの高級住宅地なら文句なしにAランクだ。次に開業医の息子か勤務医の息子か?同じ医者でも開業医と勤務医とでは年収が違う。そして、国公立大学志望か私立大志望か?授業料の高い私大医学部を志望していればバックに財力≠ェあることを意味する。貴美枝はこと細かに学生たちを観察、チェックしていた。入校希望者は必ず、まず、事務・受付係の自分に申込書を出す。自然に学生たちの個人データ≠ヘ集まっていった。  
「フフフッ。ウフフフッ。私の計算どおりだわ(笑)」  
水野貴美枝、22歳。都内の短大生時代は、その美貌で、学園クィーンとして君臨した。就職に際して「ぜひ、うちの受付で」と一流企業からの誘いもあったが断った。どうせOLの給料なんてどこで働いてもたかが知れている。どうせ就職は結婚するまでの腰掛け・・・。それならば、と金持ちの医者の息子たちが集まってくるこの、大学医学系受験専門予備校の事務員を就職先に選んだ。そして、その目論見≠ヘ見事に当たった。同級生のOLたちはアフターファイブにせっせと合コンに励んでいるが、自分にはその必要はない。予備校の事務室にいるだけで向こうから金持ちのボンボンたちが次から次へとやってくるからだ。貴美枝にとっては予備校が合コン会場≠フようなものだった。「Aランク」の学生たちには自分から好んで話しかけて近づく一方、逆に「Cランク」の学生が向こうから近づいて来ても「私は講師じゃないから・・・」とハエを追い払うようにして冷たくあしらった。ズル賢い女・水野貴美枝。そして、特上Aランク≠フ学生・満田が現れたのだ。向こうにその気があるなら、あとは、こっちからスリ寄ればいいだけだ。学園クィーン時代から衰えのないこの美貌で、もはや獲物≠仕留めたのも同然・・・・。
「フッ、フフフッ、フフフフフッ」  
貴美枝は満田の個人データが映し出されたエクセル画面に向かって上下に肩をゆらしながら笑い出した。  
「フッファッハッハッハ。アーッハッハッハッハ。」  
そして、イスから立ち上がり喜びのあまりベッドの上にゴロンと横たわり仰向けになって今度は大声で笑い出した。


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